中央アルプス木曽駒ケ岳は、駒ケ岳ロープウェイで標高約2,600mまで上ることができ、日帰りで標高3,000mに近いピークを踏めることもあり、季節問わず人気の山域です。しかし、簡単にアプローチできる手軽さから多くの入山者が集まり山岳遭難が多発している状況です。
2019年4月、木曽駒ケ岳にて日帰り予定の登山者が行方不明となり、数日後に県警ヘリにて発見されました。発見された場所は、黒川の上流部であることから、下山時に黒川谷へ迷い込んだものと考えられます。
実は乗越浄土を境に、カール地形が2つ存在します。ロープウェイのある千畳敷カールとは別に、駒飼ノ池や濃ヶ池の存在するカール地形が黒川谷へ広がっているのです。下山時に「宝剣山荘に着けば、あとは千畳敷に下るだけ。」と思っていると、千畳敷カールより手前に広がるもう一つのカールへ迷い込む可能性があります。
また、木曽駒ケ岳登山は決して単純なルートではなく、浄土乗越、丸山、木曽駒ケ岳と、登りと下りを繰り返します。下山も同ルートですが、繰り返すアップダウンのために、歩いてきたはずの距離・方向感覚を狂い、宝剣山荘から見える黒川谷を千畳敷だと思ってしまう可能性もあります。
昨年の夏、今回の遭難現場に至る黒川谷方面での救助活動中に、宝剣山荘方面から下りてくる登山者に声を掛けられました。「千畳敷はこちらでいいんですよね?」と。ここにも遭難しかけた人がいる、と思いましたが、この《カール間違い》は、夏でも起こるのです。夏は登山道が露出しているため途中で気付きますが、冬は気付かずに下ってしまう可能性があります。しかし、標高差約2千mの雪深い渓谷を下って、無事に生還することはほぼ不可能でしょう。しっかり地形を見極め、地図やコンパスやGPSを使用し、ルートミスをしてもラッセルの登り返しが出来るくらいの体力は身につけて雪山に入りたいものです。
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